長々と続けて書いてきたフェラーリミュージアム訪問記の最後はエンジン博物館。単体で展示されているエンジンの機能美をひたすら鑑賞した記録です。
エンツォの生家と、父アルフレードの金属工場だったレンガ造りの建物に歴代エンジン(勿論ほんの一部)が展示されています。
歴代エンジンの展示
気筒数やターボ過給の有無などのタイプ別に展示されていました。折角マメに記録して来ましたのでミュージアムの説明パネルにあったスペックも併記します。
12気筒エンジン
125S(1947)
初めてフェラーリの名前を冠して世に出た第一号車125Sのエンジン。3台製作された実車はクラッシュなどで失われたと言われているので復元品だと思います。
排気量 | 1497cc |
レイアウト | V12 60° |
最高出力 | 118HP @6800rpm |
F113A(1984)
テスタロッサのエンジンですね。イタリア語”Testarossa”は「赤い頭」の意味。カムカバーが赤く塗られていた1958年の250TRに因むネーミングでした。
排気量 | 4943cc |
レイアウト | V12 180° |
最高出力 | 390HP @6300rpm |
インマニの形状から、展示機は後期型だと思います。
512BBから踏襲したトランスミッションとの2階建てレイアウト。ランボはカウンタックで室内側にミッションを張り出すレイアウトを採用したりと、どちらも12気筒ミッドシップのレイアウトに苦労していたことが伺えます。
フェラーリ自身が確信犯的にBB=Berlinetta Boxerのサブネームを付けながら、ボクサー・水平”対向”ではないのも今となってはご愛敬。
F50(1995)
F1エンジンから発展させたユニット。F1同様エンジンも構造材として応力を負担させるためボディー直付けだったそうですが、音振対策はどうだったんでしょうか。
排気量 | 4698cc |
レイアウト | V12 65° |
最高出力 | 520HP @8500rpm |
F140B(2002)
ピニンファリーナのチーフデザイナーだった奥山清行さんがデザインしたとされるEnzoのパワーユニット。
排気量 | 5998cc |
レイアウト | V12 65° |
最高出力 | 660HP 7800@0rpm |
オルタネーターがデンソー製で日本人として誇らしいですね。
F140EB(2011)
奇妙なシューティングブレークボディーの4WD、”FF”のパワーユニット。エンジン前側に出力軸らしきものが見えます。
排気量 | 6262cc |
レイアウト | V12 65° |
最高出力 | 660HP @8000rpm |
F1エンジン
F1 015/3(1975)
ニキ・ラウダがタイトルを獲得した312Tのエンジン。ラウダファンには涙モノの展示です。
排気量 | 2992cc |
レイアウト | V12 180° |
最高出力 | 495HP @12200rpm |
F1 126CK(1981)
ヴィルヌーヴに「真っ赤で早いキャディラック」と評された、パワフルだけどシャシー性能は低いという往年のフェラーリF1らしいマシンでした。エンジン単体の型式はTipo 021だと思います。
排気量 | 1497cc |
レイアウト | V6 120° |
最高出力 | 540HP @11000rpm |
ターボチャージャーは120°バンクの内側というレイアウト。BMWは直4だったり、ホンダやTAGポルシェ、ルノーのV6勢も色々なメカニズムをトライして面白い時代でした。
120° V6ツインターボのレイアウトを、昨年登場の296GTBが40年の時を経て採用したというのも興味深いところです。
036/2(1990)
展示機はプロストが1990年フランスGPで優勝した際のものとありました。640系がいち早くセミATを導入したのは、ピーキーなエンジン特性のため7速ミッションを使いたかったのも一因だったと言われています。
排気量 | 3497cc |
レイアウト | V12 65° |
最高出力 | 680HP @12750rpm |
ヘッドは5バルブなので合計60バルブ。
F1 049(2000)
シューマッハがフェラーリでは初タイトルを獲得したF1-2000のエンジン。この後2004年まで5連覇という皇帝時代の幕開けでありました。
排気量 | 2997cc |
レイアウト | V10 90° |
最高出力 | 805HP @17500rpm |
F1 056/K(2007)
ライコネンが6勝を挙げてドライバーズタイトルを獲得、マッサも3勝と健闘してWタイトルも獲得したシーズンでした。
排気量 | 2398cc |
レイアウト | V8 90° |
最高出力 | 750HP @19000rpm |
V8エンジン
ディーノのV6もこのカテゴリーで一緒に展示されていました。ミッドシップの所謂「ピッコロ・フェラーリ」の系譜という趣旨のようです。
F135B(1967)
ディーノ206/246だけでなくフィアットのFRスポーツやランチア・ストラトスにも積まれたユニット。初期の2Lはアルミブロック+マグネシウムのカムカバー、後期の2.4Lは鋳鉄+アルミに変更されています。
排気量 | 1986cc |
レイアウト | V6 65° |
最高出力 | 180HP @8000rpm |
F129B(1994)
F355に搭載された5バルブユニット。この辺りからフェラーリの品質は劇的に向上したと言われています。
排気量 | 3495cc |
レイアウト | V8 90° |
最高出力 | 380HP @8250rpm |
5バルブなので”quattrovalvole”ではなく”cinquevalvole”。
F136E(2004)
F430のパワーユニット。5バルブはデメリットの方が多いことが徐々に分かって流行が終わり、フェラーリも4バルブに戻ります。同じベースのエンジンがマセラティのクアトロポルテにも積まれました。
排気量 | 4308cc |
レイアウト | V8 90° |
最高出力 | 490HP @8500rpm |
F136IH(2008)
カリフォルニアに搭載されたフェラーリ初の直噴エンジン。年代が進み、エンジンがどんどん補器類やカバーの中に埋もれてゆくつれてエンジン上部の赤い面積が増えてゆきます。
排気量 | 4297cc |
レイアウト | V8 90° |
最高出力 | 460HP @7750rpm |
ターボエンジン
V8とは別に展示されていた市販ターボエンジンの系譜。
F106D(1982)
昔の日本同様、2000ccを境に税金が一気に高くなるイタリア市場向けに308GTB/Sの排気量を下げたモデル、208GTB/Sがフェラーリとしては余りにも非力だったので(155PS)それをターボ化したのが208ターボ。
排気量 | 1990cc |
レイアウト | V8 90° |
最高出力 | 220HP @7000rpm |
外観は308とほぼ同じですが、ターボはリアに小さなNACAダクトが追加されています。
40%もパワーアップするのですからターボの効能は絶大です。
KKK製ターボチャージャー。
F120A(1987)
ドッカンターボの集大成、F40様のエンジンであります。ギアボックスやインタークーラーと一緒にパワートレイン状態で展示されていました。
排気量 | 2936cc |
レイアウト | V8 90° |
最高出力 | 478HP @7000rpm |
F154CB(2015)
488GTB/Sのエンジン。フェラーリも時代の趨勢でダウンサイズ、296GTBのV6がこのV8に取って代わるのでしょう。高い位置にターボチャージャーがマウントされており、搭載状態ではインマニとの間にインタークーラーが入ります。
排気量 | 3902cc |
レイアウト | V8 90° |
最高出力 | 670HP @8000rpm |
ターボチャージャーは我らがIHI製。フェラーリがIHIを採用したのはF40からだった筈ですので長いお付き合いです。
F154BE(2017)
同じ154系ですがFRのポルトフィーノは給排気系のレイアウトがかなり異なるのが興味深い。
排気量 | 3855cc |
レイアウト | V8 90° |
最高出力 | 600HP @7500rpm |
ターボチャージャーは最近の乗用車トレンドっぽいレイアウトで、エキマニ(鋳物の一体物)直後に付いています。
1~6気筒
単気筒のフェラーリ??と思いますが実験用のエンジンです。
F93A単気筒プロトタイプ(1992)
翌年のF1エンジン(WikiによるとTipo 041)と同じボア・ストロークの単気筒プロトタイプ。これ単体をバイクに載せたらどんな感じでしょうね。
252F1/2気筒プロトタイプ(1955)
2.5L時代のF1エンジンの検討用ユニット。設計は後にフィアットの直4長寿エンジンを設計したことでも知られるアウレリオ・ランプレディ。
F134 2T/3気筒プロトタイプ(1994)
ロードカー用2サイクルV6エンジン検討用ユニット。フェラーリも色々と研究しているものだと感心します。
F135A ”Double Crankshaft”(1994)
ダブル クランクシャフトなる謎のエンジン。
V6と同じエンジン長でV12を...という目標の実験エンジンだったようです。
検索したら出てきた特許申請用らしきイラスト。上下にクランクシャフトを置き、燃焼室を上下3×2のシリンダーで共有するというアイデアの模様。
それらしくデザインされたカバーの意匠に単なる実験品ではない、この時の本気度を感じます。
電動化時代
F140FE(2013)
LaFerrariのHY-KERSパワーユニット。跳馬も電動化の時代であります。
排気量 | 6262cc |
レイアウト | V12 65° |
最高出力 | 963HP @9000rpm |
システム全体はマニエッティマレリですが、部分部分にデルファイやデルコといったアメリカ系も入っています。
最後に
マラネロとモデナ、2つのミュージアムで数々の名車(中には迷車も)を堪能しましたが個人的に最も興味深く見たのがこのエンジン博物館でした。特にF1や試作エンジンはフェラーリ自身が運営するミュージアムならではの展示でした。
一連の記事を書きながらこの時のことやその場の空気感を思い出し、イタリアまで行った甲斐があったと改めて感じる次第です。